日曜日, 5月 31, 2020

「数字」が気になるヒトへのお話し(1年生応援メールマガジンアーカイブ:その1 on 7th Apr 2020)

本年度は、1年生の担任になりました(香川大学教育学部には、1年生のみクラス担任制度があります)。

今年の1年生は、かわいそうに。必要最低限の手続きを除いて、大学のキャンパスに足を運ぶ機会がありません。
ふだんならクラスの仲間や、サークル等で楽しく話しながら、充実した学生生活を送っているはずのこの時期。学生によっては人と会話をする機会自体がほとんどなくなるだろうことを心配し、4月からしばらく、隣のクラスの仲良しの先生と共同して、期間限定メールマガジンを送っていました。

中身はともかく、事務的な連絡以外に、大学はあなたを見ているよ!というのが伝わるといいなと思っての取り組みでした。

少し時間が経ち、メールマガジンも既に一区切りさせましたが、せっかくなのでアーカイブとして、投稿分を順次ここに公開します。
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さて、インターネットやテレビの情報は相変わらず、イヤになるほどにコロナウィルス一色ですね。
日々報道されている感染者数は、PCR検査によって確かめられているということは、みなさんご存じだと思います。
では、検査によって「陽性」と結果が出た人は、全員がコロナウィルスに感染しているか。
「陰性」と出れば、安心してよいか。
答えはいずれも否です。
それは、PCR検査に限らず、全ての検査には「偽陽性」(ホントは陰性なのに陽性!となる場合)と、「偽陰性」(その逆で、ホントは陽性なのに陰性と診断される)というケースがあるからです。

どんな検査も、完璧はないわけですね。
陽性の人に検査をした結果、正確に「陽性」と把握できる割合を「感度」、
逆に、陰性の人に検査をした結果、正確に「陰性」と把握できる割合を「特異度」と言います。
現在(註:3月下旬時点)のPCR検査は、感度は30-70%程度、特異度は99%以上と推定されているようです。つまり、「偽陰性」の人はかなりの割合がいて、「偽陽性」の人はほとんどいない、ということになります。
https://www.asahi.com/articles/ASN3M7G1XN3MULBJ01C.html
この新聞記事がわかりやすいかな。

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では、いったんPCR検査の話から離れて、検査一般に関わる数字の話をします。
たとえば、ある病気について、1000人に1人の割合で感染者がいることがわかっているとします。
この病気の検査の「感度」は98%(つまり2%は、ホントは陽性なのに陰性と診断される「偽陰性」)、
「特異度」は99%(つまり1%は、ホントは陰性なのに陽性と診断される「偽陽性」)です。

さて、この病気の検査が(ランダムに)行われた結果、ある人が「陽性」と診断されたとします。
その人が実際に感染している割合は、いくらくらいでしょうか。

答えは、98%ではありません。
実は、8.9%です。

なぜそうなるのか。
陽性反応が出るケースは、実際に陽性である場合と、「偽陽性」である場合がある。
実際には病気ではない人が、実際に病気に罹っている人よりも、そもそも圧倒的に多い、ということがヒントになります。

この話の先に関心がある人は、以下の本を手に取ってみてください!
下條信輔 2019 『潜在認知の次元』有斐閣
または、「ベイズ確率」「ベイズ統計学」というキーワードで、書籍等を調べてみることを勧めます。

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今回のコロナウィルス感染症をはじめ、実際の感染症検査は「病気の疑いのある人」を対象にされる場合がほとんどです。ですので、このたとえ話の数字で示されているものと、実際の社会で起きていることがイコールになるわけではありません。

いっぽうで、どんな検査でも完璧ではないこと、一般に検査の対象者が増えれば増えるほど、「偽陰性」や「偽陽性」の人の数が増えていくことはイメージできるかと思います。

このような知識は、コロナウィルスに関する対応の答えを、直接与えてくれるわけではありません。
とはいえ、これからみなさんが、様々な報道や情報を読み解き、それをうのみにするのではなく、自分なりの問いをたて、考えていく手がかりとなるはずです。

入学式の日、岡田涼先生のお話にもありましたが、大学は学問をするところです。
高等学校まで取り組んできた「学び」に加えて、学問では「問」すなわち問いを立てることが大事になります。
与えられた問いの答えを、誰か/どこかから知識を得て探すことを越えて、自分なりの問いを立て、考えていく構えを、4年間で少しずつ育てていってもらえると嬉しいです。

ではまた!