月曜日, 2月 03, 2014

思いを分かち合う一歩としての乳児期(松本)

 「子どもとつくる0歳児保育」(ひとなる書房)を一緒に執筆させていただいた愛知県春日井市・第一そだち保育園へ、ずっと出かけたいと念願していた「節分」を見に足を運びました。
 0,1歳児だけの乳児専門の保育所。
 0,1歳児に行事?! しかも節分?! と不思議に思う方も多いかもしれませんが、節分は、第一そだち保育園がその積み重ねてきた歴史の中で、とても大切にしてきた行事でもあります。

 合言葉は「怖いだけの行事にはしたくない!」
 いつもとちょっぴり異なる場面を前に、みんなで心動かせる行事に、との思いで、職員間で何度も話し合いを重ねます。そして今年は、子どもたちの大好きなゆかりおにぎりを、給食でおなじみのお櫃から出し、子どもたちの前で握って食べる鬼が登場、という展開に。
 園庭につながる外階段でのおにぎりパフォーマンスの後、1歳児クラス&0歳前半児クラスには直接登場!
 柊と鰯に撃退されたり、みんなの豆まきで逃げていく、おなじみの姿も味わえます。
 ご飯に見たてた綿が、手袋の静電気でうまく握れない!という予想外のハプニングもあったけれど、後に落ちていた綿のかけらを見つけた1歳児たち、オニサン、タベテタ! パラパラシタネ!と思い出しながら話していました。
 その日の給食は、おにぎり。そしてオヤツは、かわいい鬼のホットケーキでした。 

 一緒にさがし、一緒にのぞいて、一緒におどろき、一緒に豆を投げ、そして一緒に安堵する……
 ドキドキ感も、喜びも、こうやって誰かと分かち合える人生を、温かい大人たちのまなざしの下でスタートできる子どもたちの幸せさを、改めて感じた一日でした。
 そんな時間を、できるだけ多くの子どもたちにプレゼントしたいものです。
 そのための仕事を、これからも積み重ねていきたいと思います。

火曜日, 12月 31, 2013

「食」が広げる豊かな保育(松本)

  2013年もまもなく終了。
  今年の締めは、12月1日に出かけた「全国保育所給食セミナー」のことをちょっぴり、書きたいと思います。

  食の都・京都にて、保育者と給食担当者の双方にいらしていただいた前でお話ししたのは「保育の力は食によって深まり、食の力は保育によって広がる」ということでした。
  「ともに食べる」ことでヒトはちょっとほっこりしたり、気持ちが落ち着いたり、笑顔になれたり……。
  緊張する初対面の場ではお茶を出したり、もっと話したい時は「まあ、ちょっと一緒に食事でも」と誘ったりするのも、きっとヒトが、歴史を経て生み出した知恵のひとつなのでしょうね。
  そんな、日常に埋め込まれている所作でありながら、特別感がある「食」の場面は、子どもたちにとって特別な思い出に残る経験と結びつきやすいのではないでしょうか。その姿を目にすることで、保育者はまた、普段とは異なる子どもの姿を発見できるかもしれません。つまり食と保育がつながる魅力は、「おいしく食べる」はもちろん、それを越えた明日、そしてあさっての保育を、より豊かにつくる手がかりを提供する点にこそあるのでしょう。

  大泣きしている子が、だっこされて給食室の前にでかけると、ふと気分が変わる。
  子育ての初期、「食」の心配を遠く離れた専門家にいきなり相談することはハードルが高すぎるけれど、身近にいて、いつも声をかけてくれる給食の先生には、ちょっと話してみようかな、と思える。
  ヒトを介して、ヒトらしい学びを成り立たせていくまっただ中の時期である乳幼児期に、給食室がすぐそばにある保育が保障されることの意義は、想像以上に大きいものだと感じます。

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  2013年。私個人としては、保育と芸術士、保育とミュージアム、そして保育と給食などなど、いくつかの大切な出会いを土台に、保育と子どもの明日、そしてあさってをより豊かにしうるだろう、さまざまなつながりを考え始めた年でもありました。
  キーワードである「日常」と「非日常」をベースにしつつ、2014年も引き続き考え、研究を進めていきたいと思います。

  旧年中は大変おせわになり、ありがとうございました。
  みなさま、よい年をお迎えください。
  新年もよろしくお願いいたします。

火曜日, 11月 19, 2013

「仲間とともに考える」五歳児保育をどうつくるか(松本)

次のエピソード。香川・こぶし花園保育園の、ある年の5歳児クラスでのできごとです。
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 園の近所にある障害児通園施設「タンポポ園」によく遊びに行かせてもらう5歳児めろん組。今年度も6月から、月に1度の割合でお邪魔させてもらっています。
 運動会前の9月のある日、玉入れをしました。保育者が手伝うというハンディをつけた結果、勝ったのはタンポポ園の子どもたち。めろん組の子どもたちは大泣きしたり怒ったり。悔しさのあまり、みんなが帰る段になっても「もう帰らんっ!」とすねて声を上げる子もいました。障害を持っているタンポポ園の子に対してでも、勝負事になったらこんなに熱いんか……と担任も驚くほどです。
 運動会も終わった10月のその日、前回に起こったそんなことはすっかり忘れてタンポポ園に再び遊びに行きました。そんなめろん組の子どもたちに対し、タンポポ園の保育者は開口一番「今日は玉入れしましょうか!」と提案します。「???」「あぁー?」とめろん組の子どもたちも、担任も驚きました。
 はじめは、めろん組だけで2組に分かれて玉入れをしました。次にいよいよ、タンポポ園の子どもたち対めろん組の子どもたちの番です。そこでめろん組から「タンポポ園の子も同じヤツ(条件)でして」と声が上がり、大人の助けなし、両者同じ条件で玉入れ対決をすることにしました。
 結果は、めろん組のみんなの勝ち。
 いっぽうのタンポポ園のみんなは、1コも入らなかったのです。

 それを見て、静かになっためろん組の子どもたち。
 しばらくすると声が上がり始めました。「じゃあ、箱を先生が持って、その中に入れることにして」「でもちゃんと揺らしてよ」と子どもたち。「こう?」とタンポポ園の保育者。「ちがう! もっとこう歩いたりするんや」「わかった。こうやね。」「先生たちは、手伝ったらいかんよ!」「わかった!」と話が進んでいきます。
 そうやって自分たちでルールを決め、納得したうえで、改めて玉入れに臨みました。
 めろん組は普通のカゴで、タンポポ園の子どもたちは、保育者のもつ箱で。
 結果は、僅差でついにめろん組の勝ち。めろん組のみんなは、大喜びで帰路についたのでした。
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 どうすべきかを大人が投げかけるのではなく、5歳児同士で考え合うプロセスと結論を信頼するまなざしのもとでめばえたものは何か。
 雑誌『現代と保育』(ひとなる書房)87号連載に、上記のエピソードも含め、表題のタイトルでまとめました。
 よろしければ、お読みいただけると嬉しいです。

土曜日, 11月 09, 2013

保育者間の“信頼”によって切り拓かれる子どもの可能性(松本)

 先日、香川県の幼児教育支援員という仕事で、香南こども園(高松市)に出かけ、4歳児の保育を見せていただき、園内研修にお邪魔してきました。
 香南こども園は、2012年にスタートした、高松型の「こども園」の一つ。
 幼児の各クラスには幼稚園籍と保育所籍の子どもがおり、保育士と幼稚園教諭が、ともにクラス担任として保育に携わっています。小学校風に言えば、チームティーチングの形式です。

 この日の主活動は、ホールでのグループ対抗のゲーム。
 ゲーム前に行う遊びをグループ毎に選び、ホールに移動……となるかと思いきや、1つのグループは意見がまとまらず、保育室に取り残されてしまいました。
 子どもは5人。「股くぐり」がしたい子が4人。「マット押し」がしたい子が1人。
 この日はサブの役割をしていた、B保育者がそばについて話し合いです。
 それぞれの思いを改めて確認したところ、マット押しを主張する子に向けて「(意見が)1人になった!」と口にしたPちゃん。
 それを制しつつ「(マット押しがしたい)Qくんの気持ちもあるよ」と問い直すB保育者。
 聞けばQくん「この間くぐり抜けしたから、今日はマットにする」と。
 なるほどそれもごもっとも。話し合いは続きます。
 それぞれ、一生懸命自分の思いを言葉にして伝える子どもたち。ふと思い立って「(股くぐりの)トンネル、どうしてもしたいん?」と自分から仲間に問いかけてみたり……。
 でも、ホールに行った友だちの歓声が遠くから耳に入る中、早く行きたい思いもあって、決めきるのはちょっと難しかったようです。しばしの後、「他のチームが何をしているか見てこようか」とB保育者に気持ちを切り替えてもらい、続きはホールで、ということになったのでした。

 多数決やじゃんけんで決めれば、計画にそってスムーズに実践は進んだことでしょう。 研究保育で、私をはじめ観覧者が多々いる場。保育者としてはきれいに納めたくなっても無理のない状況だと思います。
 でも、そこで子どもたちについていたB保育者は、そうはしませんでした。時間をかけても自分の思いを言葉にして、互いに考え合うことがこの子どもたちには必要である、という思いが、B保育者の中ではっきりしていたからこその働きかけだったのでしょう。

 さて、ここでの実践を成り立たせたポイントは何でしょうか。その一つは、B保育者の抱く明確な子ども像にあることはもちろんでしょう。が、それに加えもう一つ忘れてはならないのは、この日主担任だったA保育者との関係ではないかと思います。2人の間で、育みたい子ども像が共有され、互いの関わりを信頼し合えている関係が、このような援助を可能にしたのだろうということです。

 もし、B保育者が、子どもたちではなく「事前の計画通りすすめること」が気になっていたら、この場で時間をかけ、話し合って決めようとするプロセスを支えることは難しかったでしょう。また、仮にA保育者1人のクラスであれば、他の4つのグループを残しながら、1つのグループの話し合いに十分に付き合って、子どもの言葉と思いを受けとめきることもまた、難しいのが現実かとも思います。
 アイコンタクトを交わし、先にホールへと移動したA保育者からの「今、このグループの子たちに、時間をかけて言葉を紡ぎ、考え合うプロセスを保障してあげたい」という思いが伝わったからこそ、B保育者はじっくりとこのグループに付き合うことができたのでしょう。

 実際の話し合いで子どもたちが決めきれなかったのは、頭の中で考えることばを使い始めたばかりの4歳児ゆえの発達的な限界もあったことと思います。とはいえ子どもたちには、話し合いで実際に決められたか否か以上に、このような場を体感できたこと自体が、これから自らの思いをことばにして、仲間との間で折り合いをつけながら考えていく土台となる、ひとつの大きな財産となったのではないでしょうか。
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 ところで、このグループ。かわいそうに。この日、本番のゲームでは1度も勝つことができませんでした。
 負けたらとてもくやしい。入れ込んでいるからこそ、怒ってすねたくもなる。
 でも、それを言葉にすることは、くやしかった自分の思いとちょっぴり向き合い、次につなげていく力になる。
 それは、葛藤する思いに共感し、信頼してくれる誰かがそばにいるからこそ可能になるのでしょう。

 葛藤しているからこそ、言葉にするには時間がかかることもある。
 欠けている部分ではなく、歩み出そうとする子どもの姿を信頼し、背中を押せる保育実践は、1人の力を越えて、保育者間の“信頼”が土台となったときにより豊かに育みうることを改めて学ぶことができました。
 ありがとうございました。これからの子どもたちの姿が楽しみです。






土曜日, 10月 26, 2013

『小さなこどもの観覧日』終わりました(松本・松井・常田)

 前回のエントリーにて紹介させていただいた、香川県立ミュージアムでの企画『小さなこどもの観覧日』(10/21開催)が無事終了しました。
 乳幼児×日本美術、という、これまでほとんど耳にしたことのない組み合わせに、県立ミュージアムと大学、地域NPOのコラボレーションで挑戦するということで、準備にあたった私たち自身、ふたを開けてみるまでどうなることやら……という思いもありました。
 しかし、当日子どもたちが見せてくれた姿は、それをよい意味で裏切ってくれるものでした。

 器や切子、かんざしを前に言葉がはずむ子どもたち。気づけば引率や、取材に来たはずの大人まで、しぜんと子どもたちに話しかけている姿があちこちにありました。
 秘密のアイテム「じろじろめがね」を手に自ら「笑っているヒト、探そう!」としゃべり合って、屏風に向かって思わず駆け出さんとする子どもたち。
 「能動的鑑賞」というスタイルは、ルーブルをはじめとする世界のミュージアムでは積極的に取り組まれている形式ですが、作品そのものと向き合えるちょっとした“しかけ”さえあれば、いっけんかけ離れて見える「乳幼児」と「日本美術」の間にも十分、橋を架けることができることを、当日の子どもたちの姿に改めて教えてもらったように思います。

 誰かがそういったからではなく、そのものとの関係を前に、自分が好きなものを「好き」と感じる/言えるように。それがこの先、子どもたちが生きていくうえで、自らの頭で主体的に考え、判断していく礎となるように。
 これを一つのスタートに、これからも子どもたちに「あさって」へのまなざしを育めるような取り組みを続けていきたいと思います。

 関係・協力いただいた全ての皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。

#当日の様子を、四国新聞、RNC西日本放送、RSK山陽放送をはじめ、いくつかのメディアに紹介いただきました。ありがとうございました。
 詳しくは、リンクをごらんください。

土曜日, 10月 12, 2013

小さなこどもの観覧日@香川県立ミュージアムが開催されます(松本・松井・常田)

 10/5より、香川県立ミュージアムにて「たのしむ日本美術:サントリー美術館コレクション」というタイトルで特別展(瀬戸内国際芸術祭2013連携事業)が開催されています。
 その関連事業として、きたる10/21に開催されるのが、ミュージアムの休日を利用した「小さなこどもの観覧日
 乳幼児が初めてのミュージアム&日本美術を「楽しい!」と思えるようなヒミツのしかけが、「もてなす」「祝う」「愛でる」「しつらう」「装う」の5つのコーナーに分けて、たっぷりと準備されたイベントです。乳幼児×日本美術の組み合わせは、全国的にも珍しいのではと思います。

 特別展のテーマは「生活の中の美」
 「日本美術」「古美術」等と耳にすると、なんだか遠いところのものに聞こえてくるかもしれませんが、 それはもともと生活の中にあったもの。
 そんな「生活の中の美」に触れることで、子どもたちがそれぞれ、自分の好きなものを見つけ、楽しめるような時間となることを願って、ただいま香川県立ミュージアムと、保育所等への「芸術士派遣事業」を展開するNPO法人アーキペラゴ、そして私たちの共同作業で鋭意準備中です!

当日のプレゼント(アーキペラゴ太田さんの力作!)をちょっと公開

 休日会館事業につき、この日は事前申し込みによって無料で観覧できます。
 観覧希望の子どもたち&保護者はまだまだ募集中です。
 申し込み/問い合わせは、香川県立ミュージアムまで。
 みなさんとお目にかかれるのを楽しみにしております!

月曜日, 9月 09, 2013

四歳児クラスでおとながあそびを「しかけ」る意味(松本)

 暑さに負けたかのように、更新の間がすっかり空いてしまいました。
 少しずつ再開したいと思います。まずは、この間に書いたものの紹介から。
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 雑誌『現代と保育』(ひとなる書房)の最新号(86号 7月刊行)では、連載『実践研究』にて『四歳児クラスでおとながあそびを「しかけ」る意味』のタイトルで、愛知県春日井市・第2そだち保育園の保育実践を紹介させていただきました。
 保育歴3年目の若手保育者が中心になって、絵本『11ぴきのねこ ふくろのなか』の世界へと誘うしかけが子どもたちの日々の中に埋め込まれることで、子どもたちがそこにぐんぐん引き込まれていく様子が伝わってきます。

 「ファンタジー遊び」「ほんと?遊び」などと称されるこの種の保育実践は、保育者の子どもたちに向けた積極的な働きかけがあってはじめて成立するという意味で、「保育ならでは」の経験を子どもたちに提供できる実践だと感じます。いっぽうで、保育者が「世界」をつくり込みすぎると、子どもの思いとの間に乖離が生まれることも……。
 今回の実践の魅力は、保育者がよい意味で迷い、子どもの様子を見ながら試行錯誤したことで、必要以上の「しかけ」にならず、子どもたちの楽しさを引き出し、膨らませることに成功したという点にあるのではないかと感じました。

  『現代と保育』は、年3回のペースで刊行されます(次号は11月)。
 明日の保育、あさっての保育のヒントとなる、興味深い記事がたくさん載っている雑誌ですので、よろしければ、ぜひお読みいただけると嬉しいです!